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神戸地方裁判所 平成7年(ワ)1045号 判決

原告・反訴被告

藤田全英

被告・反訴原告

伊藤物産株式会社

主文

一  原告は、被告に対し、金二七六万四三一四円及びこれに対する平成七年一〇月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告のその余の請求を棄却する。

三  原告の訴えを却下する。

四  訴訟費用は本訴、・反訴を通じてこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  本訴

原告の被告に対する別紙交通事故目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務は金七〇万円を超えては存在しないことを確認する。

二  反訴

原告は、被告に対し、金四三一万六七一〇円及びこれに対する平成七年一〇月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、別紙交通事故目録記載の交通事故(以下「本件事故」という。)により生じた被告の物損に関し、原告が被告に対し、債務の一部不存在の確認を求め(本訴)、被告が原告に対し、民法七〇九条に基づき損害賠償を求める(反訴)事案である。

なお、反訴の付帯請求は、反訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。

二  争いのない事実等

1  本件事故の発生

別紙交通事故目録記載の交通事故が発生した。

2  本件事故に関し、原告には自車を適切に運転しなかつた過失がある。

したがつて、民法七〇九条により、原告には、被告に生じた損害を賠償する責任がある。

3  被告は、本件事故により損傷を受けた普通乗用自動車(神戸三三て七九三二。以下「被告車両」という。)の所有者である。

三  争点

本件の争点は、被告に生じた損害額である。

四  争点に関する当事者の主張

1  被告

本件事故により、被告には、被告車両の修理費実額金三〇五万六七一〇円、代車料金一二六万円(一日あたり金七〇〇〇円、一八〇日間分)、以上合計金四三一万六七一〇円の損害が生じた。

2  原告

本件事故により、被告には、金七〇万円の被告車両の車両損害が生じた。

なお、被告車両の修理費は本件事故当時の時価を上回つており、右時価が車両損害額となる。

また、代車料は発生していない。

第三争点に対する判断

当裁判所は、以下述べるとおり、修理費用金二七六万四三一四円を、本件事故による被告の損害として認める。

一  車両損害

1  本件事故により、被告車両が損傷を被つたことは当事者間に争いがないところ、乙第一号証によると、右修理費用を金二七六万四三一四円とするのが相当である。

被告は、乙第一〇号証により、右修理費用は金三〇五万六七一〇円である旨主張し、乙第一一号証によると、被告が右金額を支払つたことが認められる。

しかし、乙第一号証は本件事故直後の見積金額であることが認められるところ、これと甲第二号証の一及び三とを総合すると、安田火災海上保険株式会社が被告車両の修理代を金一九五万三七四〇円と査定したのに対し、室賀自動車整備工場株式会社が、ほとんどの項目については右保険会社の査定と同一金額としたものの、一部の項目についてこれと異なる金額を計上し、また、新たにいくつかの項目を加えて、右修理代金の見積をしたことが認められる。

そして、乙第一〇号証によると、右修理は右見積から一年以上経た後にされたことが認められるから、立証責任を負担する被告が、右修理の内容、見積と差額が発生した理由を立証し、ひいては、右修理が本件事故と因果関係のあることを立証しない限り、右見積金額を本件事故と相当因果関係のある修理代金とするのが相当である。

2  ところで、甲第二号証の二、第五号証によると、被告車両は昭和六二年九月に初度登録された通称「シボレー・カマロ」と呼ばれる車両であること、被告車両の本件事故当時の平均販売価格は金七〇万円であることが認められる。

そして、交通事故により中古車両が破損した場合において、当該車両の修理費相当額が破損前の当該車両と同種同等の車両を取得するのに必要な代金額の基準となる客観的交換価格を著しく超えるいわゆる全損にあたるときは、特段の事情のない限り、右交換価格からスクラツプ代金を控除した残額が当該車両の車両損害になるというべきである。また、右特段の事情については、不法行為に対する損害賠償における公平の理念に照らし、被害車両と同種同等の自動車を中古車市場において取得することが至難である、あるいは、被害車両の所有者が、被害車両の代物を取得するに足る価格相当額を超える高額の修理費を投じても被害車両を修理し、これを引き続き使用したいと希望することを社会通念上是認するに足りる相当の事由が存するなどが、典型的なものとして考えられる(東京高裁昭和五七年六月一七日判決・判例時報一〇五一号九五頁参照)。

3  そこで、引き続いて、本件において、右特段の事情が認められるか否かについて判断する。

右認定のとおり、被告車両は昭和六二年九月に初年度登録された通称「シボレー・カマロ」と呼ばれる車両である。そして、本件事故時、すでに登録後七年を経過しており、外国製の車両であることもあつて、被害車両と同種同等の自動車を中古車市場において取得することは至難であつたというべきである。

また、乙第一〇ないし第一三号証、被告代表者本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、被告の代表者である伊藤祐一は、自動車に強い愛着を抱き、古い車を長く乗り継いでいること、被告は、被告車両の他に、昭和五三年九月に初度登録された自動車を所有していること、右伊藤祐一は、昭和四三年に初度登録された自動車を所有していること、右二台の自動車は、本件事故当時、被害車両ともども、被告及び右伊藤祐一が利用していたこと、右伊藤祐一は、被告車両を、少なくとも二〇年間は乗り続けるものであること、被告車両は平成八年一月に修理がされ、修理代金三〇五万六七一〇円が実際に支払われたこと、被告は従業員三名の会社で、実質的には右伊藤祐一の個人営業と見られることが認められる。

そして、これらの事情によると、被告あるいは右伊藤祐一が、被告車両の代物を取得するに足る価格相当額を超える高額の修理費を投じても被告車両を修理し、これを引き続き使用したいと希望することには、社会観念上是認するに足りる相当の事由が存するというべきである。

4  したがつて、本件における車両損害は、右修理費用金二七六万四三一四円とするのが相当である。

二  代車料

交通事故により損傷を受けた車両が客観的に使用不能であつた期間に、代替車両を使用する必要があり、かつ、現実に代替車両を調達して使用した場合には、相当性のある範囲の代車料が、当該交通事故と相当因果関係のある損害として認められるというべきである。

ところで、本件においては、被告が代替車両を調達して使用したことを認めるに足りる証拠はなく、むしろ、被告代表者本人尋問の結果によると、被告は、被告車両の修理が終るまでは、被告及び代表者が所有していた別の車両を使用していたことが認められる。

したがつて、被告主張の代車料を認めることはできない。

第四結論

一  本訴について

確認の訴えが適法であるためには、当該訴えが、紛争解決のために最も有効適切な手段であることを要すると解すべきである。

債務不存在確認請求訴訟に対して損害賠償の給付を求める反訴が提起された場合、反訴の提起があつたからといつて、直ちに債務不存在確認請求訴訟の確認の利益がなくなるわけではないが、少なくとも、弁論が終結し、判決を言渡す段階に至つた場合には、本訴と反訴が同一の訴訟物に関するものであつて、反訴に対して本案判決がされる限り、反訴に対する判断によつて、右債務の存在を前提としてより直接的にその債権の履行が命ぜられ、あるいは、その債権の不存在が確定されるものであるから、本訴については、確認の利益を後発的に喪失したというべきである。

そして、訴えの利益の有無は、裁判所が職権をもつて判断すべきであるから、原告の訴えはこれを欠くものとして却下を免れない(もとより、適正な釈明権の行使により、裁判所は、弁論終結前に、原告には本訴の取下げを促し、被告には右取下げに対する同意を促すべきであつて、本件においてもその例外ではない。ただ、本件では、弁論終結時の口頭弁論期日において、裁判所からの訴え取下げの勧めに対し、原告は、本訴を維持する旨述べた。)。

二  反訴について

争点に対する判断で判示したところにより、被告の請求は、主文第一項記載の限度で理由があるからこの範囲で認容し(遅延損害金の始期は被告の主張による。)、その余は理由がないから棄却する。

三  本件では、本訴及び反訴の訴訟物は同一であつて、反訴提起前の訴訟費用も含め、本訴に要した費用と反訴に要した費用とを峻別することはできない。

そこで、訴訟費用の負担については、本訴・反訴を通じて、実体判決をした反訴に要したものとして、民事訴訟法八九条、九二条本文を適用し、仮執行宣言については同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉孝夫)

交通事故目録

一 発生日時

平成六年一二月一七日午後二時ころ

二 発生場所

神戸市西区学園東町五丁目五番地先路上

三 事故態様

訴外伊藤祐一は、普通乗用自動車(神戸三三て七九三二)を、右発生場所の路端に停止させ、その傍らに立っていた。

そこに、対向車線を直進してきた原告運転の普通乗用自動車(大阪七七て七七二九)が、前方から右停止中の普通乗用自動車の前方に衝突してきた。

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